EYSの講師たちによるストライキを振り返る

2013年、EYS講師38名によるストライキが実施されました。ストライキはなぜ起きてしまったのか。その後EYSで何が起ったのか。そして、EYSはそこから何を学んだのか――当時、中途入社したばかりの社員でありながら、スタジオの店長として対応した金子氏に当時を語っていただきました。

■安定した環境で働いてもらいたい、が故の失敗

講師たちによる2日間のストライキが決行され、EYSはレッスンができなくなり信頼が崩れ、大きな損失を受けました。「もう会社をたたむしかない」とまで一時は追い込まれたのです。が、持ちこたえ復調できたのは、講師たちとEYSの真ん中に<音楽>という“核”となるものがあったからだと、金子氏は振り返ります。

そもそもなぜストライキが実施されたのか――芸術では飯が食えない、と昔からよく言われることですが、現代も同じ状況があります。多くの講師の協力を得て立ち上がったEYS音楽教室では、お世話になった講師たちの恩に応えたいと、彼らを正社員として迎え、安定した環境で働いてもらうことを考えました。業界を変えていきたい、という想いもありました。但し正社員として迎えるからには、レッスンだけではなく事務作業も含むスタジオ運営も行うこと、それが正社員の採用条件でした。ですが実際に仕事をしてみると向き不向きがあり、様々なトラブルが起こります。レジの金額が合わないという事態も。それらを重く見たEYSは、ペナルティ制度をつくります。最初は仕方なく受け入れた講師たちも、次第に厳しくなっていく制度に会社への不信感を募らせていき、それが爆発、ストライキにまで発展したのでした。

■ストライキ決行→その直後に金子氏、中途入社

金子氏が銀座スタジオの店長として入社したのは、講師たちが2日間にわたりストライキを実施したすぐ後のことでした。当然スタジオの雰囲気は劣悪です。密室のスタジオで行われるレッスンで、報道されたこともあり講師はお客様に経緯の説明をしたのでしょう。何人かのお客様は、レッスンが終わるやいなや「店長!」と金子氏を呼びつけます。「お宅の会社はどうなっているんだ!」「先生が可哀想だろう」と延々と怒られるのです。ひたすら謝り続けるしかありません。そんな日々が1週間ほど続きました。

しかし面白いことに、そんなに怒っているのに退会するお客様はいらっしゃいませんでした。むしろ次のレッスンに来ると金子氏に、「頑張っているか?」「元気にやっていますか」と優しい声をかけてくださり会話が弾むようになりました。すると今度は、楽しげにやり取りするお客様と金子氏の見た講師たちの方が、「何を話していたんですか?」と話しかけてきます。その反応に金子氏は再び驚きます。それまでの雰囲気は劣悪で、話しかけても無視される状態だったのですから…。それをきっかけにして両者は話をするようになりました。

■あくまでもお客様ファーストで考えようと提案

労使の問題ではありますが、まずはレッスンを受けるお客さまを第一に考えていかなければいけない、と金子氏は考えます。サービス業での手腕を買われ入社した金子氏だからこその見解です。『お客様ファースト』を他スタジオの店長とも共有し、現場でお客様に対し、今後会社が変わって行くことを真摯に指し示して行きました。講師たちへは、自分たちは中立的な立場であること、不平不満は溜め込まず言ってほしいことを伝えます。必要があれば会社へ伝えるとも。

同時に金子氏は、会社側とも話を進めます。会社をたたむしかないのでは?という社長に、『たたむ必要はありません。現場で見ていますが、お客様はこんな状態の中でもレッスンに来てくださっています。EYSには音楽を愛する、音楽に前向きな素晴らしいお客様がたくさんいます。弊社のコンセプトに同感してくださっているんです。その方々のためにも頑張りましょう』と、改善策を話し合っていきました。

■講師にとって、正社員が幸せなカタチとは限らない、そこからオールフリー制度が誕生!

現場の力が大きいと感じたEYSは、本部ではなく、現場、つまりスタジオ主導で運営を任せていこうという方針を固めます。現場の金子氏は、講師に向こう1年はレッスンに注力してもらい、スタジオ運営は行わなくてよいことにしました。もちろんペナルティ制度も撤廃。そうして約束の1年を経過した頃から3年ほどの時間をかけ、今度は本社の人事担当が講師と一人ひとりと対話を進め、その結果、ほとんどの講師が正社員から契約社員や業務委託などへ雇用形態を変えていきました。

EYSは当初、講師は正社員として採用することがベストだと考えていました。しかし講師と対話をする中で、優秀な講師ほど他でも引合いがあり、かえって正社員として縛らない方が良いことがわかりました。実際、講師の傍らプロのミュージシャンの演奏など他の仕事と同時進行する講師が多く、EYSで働く時は自分のスケジュールで自由にレッスンを入れられる方が良いというのです。一方、お客様の方も、固定の曜日や時間ではなく、仕事や家庭の都合で好きな時間にレッスンに来たいというニーズが高まっていました。互いがWinWinになる!「講師のレベル」と「お客様の満足度」を上げられると生まれたのが、『オールフリー制度』でした。

「外で引っ張りだこの講師こそ、オールフリー制度がピッタリとはまりました。EYSは今では特別なスキルを持つ講師には、EYSのITチームと協働してアプリを作るプロジェクトや、イベントを企画するチームに入ってもらい、多彩に活躍してもらっています。もちろんレッスンとは別に技術料や企画料などを支払っていますよ」と金子氏。

互いに協力し合い、成長していける関係を続けていくために、数年前から講師との食事会を定期的に開催。講師一人ひとりと前向きな関係性を築いていきたいと考えているとのこと。大変な思いをした「ストライキ」という出来事から得られた一つひとつを活かして、これからもEYSは進化していきます。どんな状況になっても、みんなの真ん中にはいつも<音楽>という核が存在する会社なのですから。

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取材・文 三浦 久美子
EYSの事業に興味を抱く外部ライター。 今後も、皆様に役立つ情報をご紹介したいと思っております

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